2017年8月5日土曜日
INTERVIEW / KANJI KINETIC
Kanji Kinetic
https://soundcloud.com/kanji
Mutant Bass Records主宰UKの極太ベースライン・ハウス/ミュータントベース・アーティスト「Kanji Kinetic」のロングインタビューを公開!
2008年に突如としてしーんに現れ、Rag & Bone、Subgrade Recordsといったレーベルから強烈なベースライン・ハウスを立て続けに発表。
ベースライン・ハウスを軸に、テクノ~ブレイクビーツ~ジューク~ジャングル~ハードコア~ドラムステップなどの要素を上手く飲み込んだオリジナリティ溢れるサウンドで全世界の低音愛好家達から絶賛されています。
自身のレーベル「Mutant Bass Records」を立ち上げ、自身の作品やKrissi B、Rico Tubbs、Deadlybuzzの作品を発表。
Q.
出身地は何処ですか?音楽活動は何処を拠点にされていましたか?
ロンドンのすぐ郊外で育った。あまり何も無い所だけどロンドンにはすぐに行けるから、かなり多くの時間はロンドンで過ごした。
最近はブリストルに住んでる。音楽シーンも日常の雰囲気も楽しんでる。
Q.
貴方の音楽のバックグラウンドを教えてください。何歳頃から音楽に興味がありましたか?最初に買ったレコードを覚えてますか?
うちは音楽一家だったから、小さい頃から音楽を作るチャンスがたくさんあった。ピアノやドラムを演奏したりしてて、MTRもかなり早い時期から使ってた。
最初に買ったのはN-Trance - Set You Freeという曲のカセットとDoctor Spin - Tetris、あとはNirvana - Bleachだったと思う。
Q.
貴方の音楽からはベースラインハウス、スピードガラージ、テクノ、ダブステップ、などからの影響を感じます。特に、ベースラインハウスからの影響を強く感じますが、ベースラインハウスを最初に聴いたのはいつ頃ですか?
ダンスミュージックは結構何でも好きで、長い期間かけて自分のスタイルを探索した。各ジャンルの気に入ってる要素を、自分の音の中で合体させてみたりして。
ちなみに、ベースラインハウスは北イングランド(俺は南に居た)のクラブでしか聴けなかったから最初はインターネットで聞いた。特定の好きな音だけを使って、色んなスタイルからの要素の組み合わせを考え始めた。
Q.
ダンスミュージック以外の影響もありますか?Kanji Kineticの曲にはハードコアやグラインドコアのドラムビートを連想させる曲もありますが、そういった音楽にも影響を受けていますか?
うん。俺はメタル、ハードコア、グラインドコアの大ファン。
5、6年程、パンクメタルバンドでドラムも叩いてたし、そこら辺の要素も自分のトラックに盛り込んでる。
Q.
SF映画やホラー映画、ゲーム音楽のサンプルも使用していますが、これらからも影響を受けていますか?
昔のゲームが大好きだ。特に日本のRPGは、サウンドトラックも含めてかなり良いよね。
アジアやヨーロッパの映画、ホラーやSF、B級映画もグッとくるし、時々サンプルで使ってる。
Q.
最初に音楽を作ったのはいつですか?その時はどんな機材を使ってどんな曲を作っていましたか?
最初は、親のドラムマシーン(YAMAHA RX-8)で音楽を作った。
まずビートを作って、そこに使えるだけのベースとうわものエフェクトを足して、テレビ番組やゲームの音楽を再現しようとしてた。
ドラムンベース制作には、FL StudioのFruityloopsをパソコンで使って、初期はごく基本的な事だけやってた。その後、ソフトの使い方を習得するにつれて、エレクトロやテクノも作るようになった。
Q.
いつから「Kanji Kinetic」として活動していますか?名前の由来は?
2005年頃にCDJを買って、DJを始めた。
当時、日本のゲームや映画、文化に興味があって日本語を勉強してた。だからDJ Kanjiって名前にした。
でもその後、別の人がもうDJ Kanjiって名乗ってたのを知ったから、Kineticを付け足した。Kineticは、「動き」(例えばダンスとか)によってエネルギーが発生するという力学的な言葉。
Q.
貴方の最初のリリースはShock Tactics EP (Rag&Bone)でしたよね。リリースはどうやって決まったんですか?最初のリリースが決まった時、どう思いましたか?
Rag & Bone Recordsのジェイソンが、リリースの件で連絡をくれた。
リリースが決まったときは心底嬉しかった。Rag & Boneは大好きなレーベルの1つだったうえ、Warlockや、Blackmass Plastics、Aaron Spectreと肩を並べてリリース出来るなんて、とても感謝してる。
Q.
その後、Passionista /Slide Flo (Electrostimulation)、Bakemono (Subgrade Records)などの作品をリリースされています。どれも、2008年当時のベースラインハウスのリスナーにとって衝撃でした。
貴方の作品には「クレイジーで極太なベースライン」、「ユニークなサンプル」、「強靭なビート」が盛り込まれてますよね。当時のベースラインハイス/ベースミュージック界においてかなり過激なものでした。
一体どんな風に自身のベースラインのスタイルを確立したのかを教えて下さい。
自分の音楽が、容易に型にはまれるシロモノじゃないことはわかってた。(例えば、売れてるベースライン系DJは、俺の曲をかけないだろう)
だけど、俺はただ自分が聞きたい音楽を作ってた。
色んなとこから影響を受けて、時にはフィジェット・ハウスやエレクトロハウスを聴いてみたりもした。
その上で、『これでもいいけど、でももっと速い方が良いはずだ!』とか考える。
あと、ベースラインの構造や型そのものは好きなんだけど、使われる音は制限されすぎてるな、と時々思ってたりして。だから、ダブステップのベースを、ベースラインの型にはめ込んでみようと思ったんだ。
Q.
貴方の音楽からポジティブなエネルギーと反逆精神を感じます。(party & destroyみたいな感じで)自身の思想なども反映されているんでしょうか?それとも、純粋に音楽を楽しむために作られているんでしょうか?
party & destroyって考え方は良いね!ははは。
俺は、エネルギッシュな音楽を初めて聞いた時の感覚を、再現しようとしてる。どのトラックも違ったアプローチから作っていく。
時にはゲーム、またある時には映画、そしてたまには政治的な問題について考えながら制作することもあるだろうね。
Q.
貴方の音楽から破壊的な衝動を感じます。もし反骨精神(もしくは破壊的な衝動)があるとしたら、それは何に対してでしょうか?
ダンスミュージックは「無難すぎ」と、時々思う。その無難さで、自分のクビを締める事もあるんじゃないかな。
俺は皆に、音楽から何かを感じとってほしいと思ってる。聴く音が、全く想定外の音であればある程、強烈な刺激が体験ができるってもんだろ。
Q.
数多くのクラブトラックとは違って、貴方の曲には独創性とユーモアがあります。
一体どのように、高いクオリティーと、そのリリース・ペースを維持しているんですか?
ありがとう!
他の(知り合いの)アーティスト同様、俺だって良い時期と悪い時期がある。大事なのはやっぱりクオリティーだから、嫌なものはリリースしないって決めてる。
あと俺の場合、リミックスとオリジナルトラック制作を両方やるって事が、バランスをとる上で大事。
Q.
ベースラインハウスやダブステップ、テクノ、ムーンバートン等、あなたには多くのスタイルがありますが、曲を作る時は、先にスタイルを決めていますか?それとも、無意識にそうなってるんですか?
たまに、先にアイデアがある。でも殆ど、制作過程でトラックのスタイルが変化する。
通常、トラックをいろんなテンポにしてみて、別のスタイルに出来るか可能性を探ってる。
Q.
16bit、Temper D、kid606、Si Beggなど様々なジャンルのアーティストのリミックスを作っていますよね。リミックスワークで重要なのは何ですか?リミックスの際は、どのようにオリジナリティーを出していますか?
俺にとって、オリジナルの制作とリミックスはかなり別物。
リミックスは、素材となる音源によって、かなり左右されるのが面白いと思う。自分のスタイルが認識されるようなリミックスを心がけてる。
オリジナルトラックの音を、自分のスタイルでいじるっていう過程は、楽しいし充実感もある。
あと、すぐに名前が挙げられるくらい尊敬してるアーティストのリミックスをする場合は、最終トラックがなかなか決められない。Si Beggのリミックスをした時は最終的に30トラック以上も出来ちゃって、1つだけ選ぶのは相当悩んだ!
Q.
現在楽曲制作で使用している機材を教えてください。どのような環境で音楽制作をしていますか?ベースサウンドはどのように作っていますか?
今は幸いにも、専用スタジオがあって、近所に誰もいないから、いつでも大音量が出せる。
MacBook Proで、ソフトはLogic ProとAbleton Live。今年は、Adamのモニタースピーカー(A7X)を買って、かなり良い感じ。
ベースの音作りには、色んなソフトシンセ(Logic's ES2、Sylenth、Massive、Circle)を使ってる。
Q.
日本語や日本の音楽をサンプリングしていますね。どうして日本語をサンプリングしたんですか?差し支えなければ、Kawaii Riddimで使用されているサンプルを教えてください。
俺は、日本の文化とマルティメディアに興味があるんだ。
で、ハードコアやガバにアニメのサンプルを使うDJ Sharpnelって言うアーティストの曲を聞いて、ガレージやベースラインにもアニメサンプルを使えばいいと思ったんだ。
Kawaii Riddimのサンプルは、youtubeでアニメの音(女の子の高い声を探してた)を探してた時に見つけた。確か、『ラブひな』をサンプルした。
Q.
貴方は2回日本に来ていますよね。日本の印象を教えて下さい。
日本は、相当楽しかったな。クラブは活気に溢れてるし、皆すごくフレンドリーだし。無名だった頃の曲も、たくさんの人が聴いてくれてた。
Mograでのライブも素晴らしかった。マルチネレコーズのDJ陣は圧巻だったし。東京と京都でやった小さいイベントも最高で、ライブはユーストもされた。
日本文化を経験できてすごく良かった。音楽シーン、クラブ、プロモーターetc.の共通点や違いの発見にもなった。特に、秋葉原のテレビゲーム屋やアーケードの店舗に相当ビビった。あれはUKには無いね!しかも、UKじゃ入手困難な自分が気に入ってるゲームのサウンドトラックのCDが買えた。
Q.
貴方の楽曲リリースのペースはとても速いですが、リリースにはペースも重要ですか?
リリースが頻繁だと、いつでも人に音楽が届けられるのが長所。けど、満足した楽曲をリリースするのがもっと重要。望まない曲は、リリースしちゃ駄目だ。
Q.
サンプル音源集「Kanji Kinetic Presents Drumstep & Mutant Bass V1&2」が現在販売中ですね。このサンプル集はKanji Kineticに影響を受けたクリエイターやドラムステップ/ミュータントベースを勉強しているクリエイターの助けになるとても良い作品だと思います。
ダンスミュージックのクリエイターにとってベース/ドラムの素材は最も大きな発明だと思います。自身のドラム/ベース素材をリリースするのに抵抗はなかったのでしょうか?
ありがとう!
うん、自分の音がサンプルとして発売されて、誰でも使えるようになるって経験は面白かった。これによって俺自身も、面白い音を作るのに専念できるようになって、ユニークなサウンドを作り続けることができるわけだから、俺にとっても良い事だ。
多くの人が俺のサンプルを使って、ミュータントベースそのものにインスパイヤされてくれることを願ってる。
Q.
貴方にとってのベースミュージックの魅力とは?
クラブではもちろんなんだけど、胸の当たりにベースの振動を感じてずっしりくる感覚とかが魅力。
そもそも、音を聞くだけじゃなく、感じるようになることで、音が持つ更なる次元にはまることができるだろ。特定のベースのノートやトーンは、意外なエフェクトや、ユニークなエフェクトをかけることによって、突出して違う感じに聞こえる。
Q.
若いダンスミュージッククリエイターにアドバイスをください。貴方の様にオリジナリティーを保つには?
自分が楽しいと感じる音楽スタイルからの影響は、何でも受ける事。
最初は俺同様、しっちゃかめっちゃか過ぎるかもしれないけど、 そういうのが徐々にシーンを作っていくもんだ。
あとは、好きなアーティストを真似るのも良いね、どんなプロデューサーでも経験したように。それをやっとけば、新作やオリジナルなものを作る際、その学んだ事が役立つから。
Q.
貴方のレーベル「Mutant Bass Records」を始めたキッカケを教えてください。Mutant Bassとはどんなジャンルですか?それ系のPartyやレーベルはUKで現れてきていますか?
Mutant Bass Recordsは、もっといろんな音楽が広く知られるべきだと思ったのがきっかけで始まった。そういう楽曲をより多くのオーディエンスに届けたいと思ったから。
ジャンルの定義付けは難しいけど、Mutant Bass Records自体がジャンルになっていくと思う。俺の音楽と同じく、ベースラインと、フィジット、ダブステップ、ブレイクビートハードコアの要素が結びついてたりする。
そういうアーティストの大半はUK出身だけど、USのDouble Oh Noとか、日本のMadmaidもいるし、この調子でどんどん発展したら良いと思ってる。
Q.
Mutant Bass Recordsの作品は全て、ドネイト形式になっています。何故リリースする作品をドネイトにしたんですか?
最近のアーティストにとって最も重要なのは、認知度だと思うんだ。
人って、名前を知ってるアーティストに親近感がわくから、名前が知られてたらリリースやブッキングも増えるからね。
フリーダウンロードなら、最大数のリスナーの耳に届く事が可能。だから、アーティスト(そしてレーベル)は、もっと人気が出る。
Q.
貴方はSoundcloudやNet Labelから多くの無料作品をリリースしています。どうやって売る音楽と無料の音楽を決めているのでしょうか?
貴方は何枚かの12インチレコードをリリースしていますが、今後も12インチレコードは貴方にとって必要でしょうか?
リリースは、可能な限り無料にしたい。だけど仮に、俺が尊敬してるレーベルからリリースの誘いがあれば、普通にオッケーする。各々のレーベルが、各々のオーディエンスを持ってて、レーベルを介することによって、もっと多くの人と繋がれるからね。
自分がクラブでレコードをかけることはないけど、12インチのリリースをするのは賛成。レコードは、ダンスミュージックの歴史の中心(実際、全ての音楽の)と言える。今現在、一般的ではないとは言え、レコードのリリースはやっぱり嬉しいよ。
Q.
貴方は世界中のフェスティバルやパーティーでプレイしていますね。ミュータントベース/ベースミュージックは世界に広まっていると思いますか?現在のUKのダンスミュージックシーンをどう思いますか?
多くの国で演奏できてるおかげで、世界中のいろんな人が俺の音楽を楽しんでくれてるってことを知ってる。けど現時点で、最大のクラブダンスミュージックはダントツでダブステップだ。俺たちの人気が上昇して、ミュータントベースがもっと有名になったらいいと思ってる。
UKにはいつでも健全なダンスミュージックがあって、多くの素晴らしいミュータントベース系アーティストが活躍してる。もう一度言うけど、他の地域同様、UKでも、ダブステップは最も一般的なタイプの音楽。ダブステップの後は、どんな『でっかい波』がやってくるんだろうな。
Q.
貴方が現在のシーンでリスペクトしているアーティスト/レーベルを教えてください。
Off Me Nut Records (UK)は、Squire of GothosやDankleを始め、数多くのタイプの無料リリースをしてる。あと、Bass Hound Records (US)も、数多くの素晴らしいフリーリリースをしてる。Coin Operated Records (UK)もずっと気に入ってるレーベルで、彼らも素材を12インチでリリースしてる。
RRRitalinとSubmerseはかなりお薦め。(Submerseは2012年に日本に引っ越したから、これからは頻繁に見れるチャンスがあるはず)
日本のマルチネレコーズは俺やSubmerseのリリースも含めて、かなり良いセレクトの日本人アーティストを出してるね。そしてもちろんマーダーチャンネル。最新コンピとか、ヤバい曲揃い!
Q.
貴方の今後のリリース予定を教えてください。今後はどんな音楽を作りたいですか?
もうすぐMutant Bass RecordsからBang HarderのEPを出す予定、RRRitalinとKid606とJAKAZiDによるリミックスも収録されてる。
他にもMutant Bass Recordsでは、俺とRRRitalinのスプリット盤も出す予定。On Kitty Corner Recordsからは、12インチで俺のHazchemという曲をリリース。
あと、Citizens Unite VIPという曲をHorror Boogie Recordsから。そしてKid606とGotekiのリミックスもリリースされることになってる。
俺は常に 自分の音を変化させ、進化させていくし、SubmerseとやったGyaku Gire(EP)みたいに、自分の好きなアーティストとも一緒に絡んでいきたい。あと、近い将来テレビゲームのサウンドトラックもやりたいな。
Q3.
最後に日本のファンにメッセージをください。
読んでくれて、そして音楽を聴いてくれてありがとう!
今作ってる新しいライブセットが出来たら、また日本に戻りたいな。Mutant Bass Recordsのフリーダウンロードは要チェックだよ!
翻訳:KYOKA
※このインタビューは2011年12月2日に行われた物になります※